Fishing2007釣行記 地獄の釜にはご用心
地獄の釜にはご用心
 
  
[報告者] 齊藤 敦
釣行日:2006/8/16〜17
 メンバー:齊藤 敦、友人二名(根本、安齋)
 
 
 
 
 
 お盆の休暇中は朝日辺りで仲間達との1泊釣行が恒例となっている。  

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日夜、自宅に予定通りにメンバーの根本氏、安齋氏が集合。安齋氏が快く運転を引受けてくれ入山祝いの前祝いにビールで乾杯。ほろ酔い気分となったところで出立。実は今回の目的地は未だ決まらず「アブも凄いだろうし、気分でどっか適当に」ととりあえず、栗子峠を米沢方面に走る。

 車中であれこれ巡らせ数年前の
6月に行って恵まれた天気とポイント毎に型の良いイワナが釣れて思い出が一杯の荒川水系Y沢に決める。ここは入渓して直ぐに直登不可能な滝があり、左岸を結構厳しいバランスで小高く巻き、沢床に降りてから暫し淵やゴルジュをやり過ごすと渓は一気に開け爽快なイワナ釣りができる。

 車止めで再度入山祝いを行い、開けきらぬ空を見ると多少の雲はあるものの今までの
40℃近い酷暑続きの余韻で天気に大きな崩れはなさそうと4時に歩き始める。歩き始めて間もなく道は一旦沢を横切る形で途切れるが沢への急な下降も残置のトラロープがあり大いに助けられる。下降した場所の直ぐ上流へ注ぐ枝沢に車中で飲み残したビールを大き目の重石を乗せて帰り用に冷やす。

 僅かで滝を巻くことになり急斜面に取り付くが踏み跡はあるもののかなり高いところまで上がらされそうな雰囲気で我々は心細い柴木を手掛りにトラバースをする。途中手掛も乏しくなり、このザックでこれ以上は無理と斜面に斜めに生えた木の数本を支点にテープで降りる。どう言う訳かN氏が歩き始めて
30分ほどなのに疲労困憊の様相でいつもの倍以上の時間でやっと滝頭に降りる。ここからは急ぐことも無いのでゆっくりと竿を出しながらの遡行とする。

 想像していたアブも思ったより少なくせっかく持参したネットも役に立たない。今日は特に魚止めを目指そうとか、あそこのポイントまでは行こうとかでもないのでテン場に快適な場所があれば、さっさと荷を降ろしまずは一杯。そしてゆっくり休んだ後に釣りを楽しむつもりなので直ぐにでもテン場を決めて腰を下ろしたいのだが、小石がごろごろしていたり、湿っぽかったりと中々決心が付くような場所が出てこない。小物ながらイワナもぽちぽちあがり「以前のテン場まではもう少しだなー」と言う付近で流れから少し離れた快適そうな砂地の平らな場所が目に止まる。

 ふんだんな薪もあるし、前回の上のテン場は急な斜面で最悪逃げようがないのでと ここに決める


 他のメンバーもそろそろビールが気になるようで当然異論も出ない。多少の小石を足で踏み均し、快適なテン場ができあがる、薪を集めテン場を造ってしまえば当然やることは毎度お決まりの年中行事。ビールで乾杯の後、焼酎に行きたいあたりでこれをやったら只の宴会になっちまうとぐっと我慢し、テン場で寝ていると言う根本氏を残し、安齋氏と上流へ向かう。釣りは上へ行くほどイワナの型も良く、ポイント毎にゆらゆら餌を待っているイワナの鼻先に投餌すると魚体をひねってパクッとくわえる。まだまだ時間もこの先のポイントもあるが少々飽きてきて(本格的に飲みたくなってきて)テン場に戻る。ここまでの心地良い疲れと釣果、天気に大いに満足。今宵も寿司、ひつまぶし、その他諸々で宴会。夜半に起き出しメタボに一層の拍車をかけるラーメンの後2度寝。3時頃だろうか、雨が時折パタパタとシートを叩く音で目が覚めるも「ああ、雲が少しあったから今日は快晴じゃないんだ」程度の思考しか働かず、またシュラフカバーに潜り込む。1時間ほどうとうとしていたが、雨は本降りに変わり、時折大粒の雨がダアーっという感じで降ってくる。この時も「雨の撤収はつらいな〜」程度で念のため目印の石が冠水し始めたら、行動を起こし始めようとねぼけ眼で流れを見ていた。30分位だろうか、雨は降り止まず、本降り、強雨、本降り、強雨と同じペースで降り続け、濁りも入ってきた。皆で荷物をまとめ河原にまで散らかしていたものをシートの下に集めさらに様子見。ここから15分ほどでビールを冷やして置いた手前のか細い流れが「川」になり、水流がテン場まで3mと迫る。荷物を寝ていた枕もとの50cmほど高くなっている小高い砂地に積み上げる。

 しかし、ここからの出水の勢いは凄まじく、
30m上流の1mほどの落差の淵は凄まじい濁流で盛り上がって溢れかえっている。

 「やばい、全部斜面に上げて逃げろ〜

とテン場着替えとサンダルのまま無造作にザックや身の回りのものを袋に放り込みテン場の斜面側に荷物を片っ端から放り投げる。この間
10分位だろうか、1時間前まで寝ていたテン場瞬く間に水中に没し、回収できなかった銀マットとシートが漂っている。一瞬ビバークの思いがよぎり、今まさに持って行かれそうなマットと床のシートだけは力ずくで引きずり出す。

 



水没したテンバ
上の写真には大石は見えない



 張り残したタープは無残にも支柱ごと流れに倒されて濁流で見えなくなる。

 流れは勢いを益々増し、水中からは大岩がゴッツン、ゴッツンとぶつかる音がし、電柱のような木が流されて行く。今立っている所さえ危険な状況になり、更に高台の泥壁を足で均して退避する。暫くこの凄まじさに驚き、只々、あっけに取られ目の前の出来事を見つめる。

 時間が経つとともに我に返り、「そう言えば朝飯も食っていなかったっけ」と安堵感からか急に腹がすく。

 幸い夕べのひつまぶしが少し飯ごうに残っており、
3人で分け合う。飯を食ってだんだんと冷静になってきたもののこの状況でどうやって帰るのか思案する。ビバークするだけの食料はまだあるが、今日の夕方に帰ることになっており、家族にいらぬ心配はかけたくない。雨は降り続いているが、いくらかではあるが、雨足が落ちてきているようだ。足元が見えない渡渉はやりたくないが、ここにいても泥壁で膝を折りながら3人で過ごすだけで、行けるとこまで行ってから判断しようとテン場を後にする。

 最初の高巻きの場所までは流されそうになりながらも何とか下ることができたが、この先の淵が大量の流木と共に渦を巻いており、かなり手強そうだ。


 根本氏をテープで確保して側壁を空身で降りてもらい、その先の下の様子を見てもらう。ここからは車止めから降りた場所までは僅かなのだがとても先に行ける状況ではないとのこと。仕方なく今、高巻いて降りて来た所を登り返し、遥か頭上の尾根を目指すことに。「えー、あそこまで?」と言う声も出るが他に方法も無い。運が良ければ尾根道に当たるかもしれない。しかし、車止めは対岸であり、運よくここまで降りることができても渓が狭まった場所での最後の渡渉が待っている。急なガレ場を慎重に登るが、上に行くほど草付きなって横に横に逃げながら這いずり廻るようにしてやっと尾根へ。そしてそこには車止めの対岸から延びていると思われる鮮明なそま道が。「まあ、少なくても水が引けば直ぐに対岸に渡って帰れるだろう」と一安心。僅かに下ると車止めが見渡せ、予想通り最初の渡渉点に導かれる。残念ながら想像した通り僅か5m先の対岸ではあるが凄まじい水量でとてもとても渡渉する気にはなれない。



 下降地点の岸壁の岩棚で小
1時間はいただろうか、コケの張り付いた石を目印にして水の減り具合をずっと見ていた。急に下がって安全な水位になることは期待できそうにもないが、10分に1度位の割合でこの石に水が掛からなくなる僅かな時間があることに気付き、このチャンスですり足で川に入ってみる。水流は相当強いものの以外にも水中の大石がスタンスになって何とか渡り切ることができた。続いて後続2人も渡り終え、無事帰還。帰還ビールをと、行く時に冷やしたビールを期待したがこれは贅沢だろう、今まで帰れるかどうかもわからずにいたのに、現金なものである。


 幸いテン場での退路は確認しておいたので大事に至らずに済んだが、今回の反省はやはり、天気に確信が無い状況での河原でのテン場設営だろう、砂地があって大量の薪がある意味を良く考えてテン場を決めないとということだろう。大いに反省、でもこのネタで暫くは宴会が盛り上りそう。





     ああ、しんどかった。







(さいとう あつし)
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